愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
これまでに何回もあったのだろうか。
彼女に呼び出されて、すぐに向かう瀬野の姿を。
光希くんの言葉がやけに胸に刺さる。
息苦しさは増す一方。
「……なんだ、川上さんもちゃんと好きなんだな」
「え…?」
無意識のうちに俯き加減になっていると、突然風雅さんに名前を呼ばれた。
思わず顔を上げると、風雅さんは微笑んでいて。
「その様子じゃ知らねぇみたいだし」
「……何が、ですか?」
「莉乃と涼介の関係性、知りたいんだろ?」
「…っ!?」
「え!風雅くん知ってるの!?
ぼ、ぼ、僕も知らないんだよ、教えてよ風雅くん!」
思わず目を見張り、固まってしまったけれど。
私以上に光希くんが食いついていた。
「俺の口から言うわけねぇだろ。
ほら、離れろ」
「なんでなんで!教えてよ!僕、本当に莉乃ちゃんが嫌いなんだ。だって涼ちゃん、いつも莉乃ちゃんを優先するんだよ?
付き合ってもないのに…愛佳ちゃんがかわいそうだよ!世界で一番大嫌いだ」
「落ち着け。ふたりが恋仲になるわけねぇよ」
「え、どういうこと…?」
光希くんだけでなく、私も頭が追いつかなくなる。
どうしてそう言い切れるのだろうか。
瀬野が莉乃ちゃんを異性として意識していないと言うこと…?
「これ以上は本人に聞け」
「えー!そこまで言ったら教えてよ!」
「光希、お前なぁ…」
風雅さんは元総長という立場であるというのに、馴れ馴れしく話しかける光希くん。
けれど風雅さんは咎めたりせず、呆れたようにため息を吐くのみだった。