愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「こんな感じなんだけど、嫌いなものはない?
もしあったら言ってね!別のものに変えるから」
ニコニコ嬉しそうに笑って。
『ありがとう』の言葉を待つ。
けれど瀬野は固まったまま動かない。
「……瀬野くん?
もしかして、気に入らなかった…?」
「あっ、いや…ううん、そんなことないよ。
すごく嬉しい、ありがとう」
お礼を言われたはずなのに、その戸惑った言い方がなんとも不服だ。
「本当?それなら良かった」
「……川上さんは」
「えっ?」
「俺にたくさんの“初めて”をくれるね」
その瞳は穏やかに見えて、どこか深い闇が見えたような気がした。
本当に不思議な人。
同時に少し怖く思えてきた。
「私も昨日と今日で瀬野くんの知らない一面が見れて嬉しい」
よくもまあ、こんな嘘をさらっとつけるものだ。
そんな自分にも驚きしかない。
けれど嘘でその場を乗り切り、私は朝ごはんを作り始めた。