愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「でも、今は羨ましいと思わないよ」
「……え」
「だって川上さんと出会えた。だからこそ莉乃の苦しみをわかってあげられるようになった気がする。
このままだと俺は、莉乃をひどく突き放していたかもしれない」
ふと腕の力が緩められる。
なんとなく瀬野の表情を見たくなって確認すると、彼は目を細めて微笑んでいた。
「ありがとう。
あの日、俺を家に泊めてくれて」
「…っ」
「自分でもわかるんだ。
川上さんに出会ってから変わったって」
私は何かした覚えはないけれど。
瀬野がそう言うのなら、別に否定はしない。
「……そう」
なんだか頬が緩みそうだ。
そのため、ギュッと頬に力を入れる。
「ねぇ、川上さん」
「……なに」
後頭部に回される手。
なんとなく、キスされるのだと悟った。
「期待して良い?」
「…な、何がよ」
「俺が何を言いたいのか、わかってるくせに」
「……ん」
もう一度、唇を優しく塞がれる。