愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
甘いジカン
目覚めのいい朝だった。
アラームが鳴る前にハッと目が覚めたのだ。
不思議と体が軽い。
「……あ」
隣を見ると、瀬野が寝息を立てながら眠っている。
そっとしてあげたくなるくらい、気持ちよさそうだった。
なるべく音を立てないようにベッドから降りる。
布団の温もりが消え、途端に冷えていく体。
慌てて上着を羽織り、暖かい格好になる。
それから髪を束ねてキッチンへと立った。
昨日一昨日と色々あったけれど。
怪我も負ってしまったけれど。
『好きだよ、川上さん』
甘い声。
優しいキス。
忘れられない、昨日の夜の出来事。
思い出すだけで頬が緩んでしまう。
本当にだらしない。
このままだと不注意で怪我をしてしまいそうだ。
ここは気合を入れてお弁当と朝ご飯作りに励む。
「……川上さん」
「…っ、瀬野…お、起きたんだ」
しばらくすると瀬野が起きたらしく、キッチンまでやってきた。
こういう時、『おはよう』ってすぐに言えたらいいのに。
どうしても冷静になろうと思ってしまい、本当にかわいげのない女である。
自覚はしているけれど、行動には移せない。