愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「そっか、俺たちはまだ恋人同士じゃないのか…」
「そんなに付き合いたいの?」
「もちろんだよ。
そうじゃないと俺、安心できない」
「安心…」
「川上さんが離れていくかもしれないから」
そう簡単に離れるものでもないだろう。
瀬野を家に住まわせているのだから、私が離れるという考えは初めからないに等しいのだが。
「それはあんたなんじゃないの」
「え、どうして俺?」
「ここは私の帰る家だけど、瀬野は違うから」
「えっ、俺の帰る家もここじゃないの?」
本当に驚いているような声。
彼は目を丸くしている。
「だって瀬野は他にアテがあるでしょ。
私じゃなくても…」
「川上さんだけだよ。
それとも嫌?俺がここに帰ってくるのは」
小さく首を横に振る。
それは否定の意を込めたもので。
「じゃあ俺も、ここを帰る家にさせて?」
「……うん」
「良かった。
これで川上さんのそばにいられる」
「そんなに安心することなの?」
「あとは川上さんと付き合えたらなぁ。
早く俺の川上さんになってよ」
相変わらず穏やかな笑みを浮かべて。
瀬野は私を甘く誘う。