愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「そっか、俺たちはまだ恋人同士じゃないのか…」
「そんなに付き合いたいの?」

「もちろんだよ。
そうじゃないと俺、安心できない」

「安心…」
「川上さんが離れていくかもしれないから」


そう簡単に離れるものでもないだろう。

瀬野を家に住まわせているのだから、私が離れるという考えは初めからないに等しいのだが。


「それはあんたなんじゃないの」
「え、どうして俺?」

「ここは私の帰る家だけど、瀬野は違うから」
「えっ、俺の帰る家もここじゃないの?」


本当に驚いているような声。
彼は目を丸くしている。


「だって瀬野は他にアテがあるでしょ。
私じゃなくても…」

「川上さんだけだよ。
それとも嫌?俺がここに帰ってくるのは」


小さく首を横に振る。
それは否定の意を込めたもので。


「じゃあ俺も、ここを帰る家にさせて?」
「……うん」

「良かった。
これで川上さんのそばにいられる」

「そんなに安心することなの?」

「あとは川上さんと付き合えたらなぁ。
早く俺の川上さんになってよ」


相変わらず穏やかな笑みを浮かべて。
瀬野は私を甘く誘う。

< 373 / 600 >

この作品をシェア

pagetop