愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「だって今、あんたが言った」
「俺が…?」

「足りないって」
「……確かに言ったね」


やっぱり認めた。
だから私は聞いたというのに。


「今日だけは許してあげる。
そこだけじゃ物足りないんでしょ」

「ねぇ、それって服を脱がせて良いって捉えるけど大丈夫?」

「……あんたに任せる」


そこまでは恥ずかしくて頷けない。
けれど抵抗をするつもりもない。


「なんか…うん」
「瀬野…?わっ」

自分なりに覚悟を決めたのだけれど、瀬野は突然私を力強く抱きしめてきた。


「風雅さんはこれを言っていたのか」
「えっ…?」

「はぁ…本当にダメだよ川上さん」


どうしてか、瀬野が大きなため息を吐いた。
何か気に障ることでもしたのかと不安になってしまう。


「突然積極的になられたら心臓に悪いよ」
「べ、別に積極的になったわけじゃ…」

「お願いだからかわいいことしないで。
さすがに俺も限界だよ」


頭をポンポンされる私は、ただ大人しく瀬野に身を預けた。

抱きしめられると落ち着くため、別に悪くない。

< 390 / 600 >

この作品をシェア

pagetop