愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「じゃあ決まりね」
「うん」
素直に頷いたけれど、ふと思った。
瀬野のことだ、他の女の人にもプレゼントしてそうだなって。
「……瀬野」
「どうしたの?」
「他の女の人にも、プレゼントしてた?」
私が初めてじゃないというのは少し複雑だ。
「……まあ、アクセサリーをあげたら喜ぶからね。でも川上さんは違うよ、つけてほしくて渡したいんだ」
「つけて、ほしい…」
「そう。だから嫌でもつけてね」
「……別に、嫌じゃない」
つけてほしくて渡したいというのは、私が初めてなのだろうか。
だとしたら安心である。
「じゃあ川上さんの気に入ったネックレスを買おう」
「うん、あんたと一緒に選ぶ」
気づけば不安は消え去っていて、一度部屋に戻り、用意していた鞄を手に持った。
「よし、お待たせ瀬野。行こう」
「うん、行こうか」
目を細めて笑う瀬野に釣られて頬を緩める。
今日は初めてのデートなのである。
できる限り素直になろうと思った。
「あっ、そうだ」
「なに?」
玄関先で瀬野が思い立ったように声を上げる。
何か忘れ物でもしたのだろうかと思ったけれど。
「今日、帰りに俺の家寄っていい?」
「別にいいけど…何かあるの?」
「忘れ物があったんだ。別に急ぎじゃないけど、早いうちに取りに行こうと思って」
「ふーん、わかった」
特に拒否することでもないから素直に受け入れる。
けれど、なんとなく違和感を覚えた。