愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「苦しくない?」
「…うん、大丈夫」
満員電車とまではいかないけれど、徐々に余裕がなくなっていく。
心配してくれる瀬野に大丈夫だと答えながらも、人が多くなるのを言い訳にして彼の袖を掴んだ。
「……川上さん?」
「降りる時、離れないように」
瀬野の腕にピタリとくっつく。
人が多いこの電車で、これは自然な状態である。
「今日はやけに素直だね」
「なに、嫌なの?」
「どっちの川上さんも俺は好きだよ」
「…っ、じゃあいいでしょ」
たまには素直になってもいいじゃないか。
かわいげのない女だと、冷めてしまうかもしれない。
なんて、少し怖いのかもしれない。
「あっ、次の駅だよ」
瀬野の言葉に一度だけ頷く。
意外と早かった。
もう少しこのままの状態でも良かったというのに。
もちろん口にはせず、瀬野と一緒に電車を降りる。
多くの人たちが私たちと同じように電車を降りたため、ほとんどが水族館へ行く人たちだろう。
やはり休日だけあって親子連れやカップルも多い。
「意外とカップルも多いね」
「うん」
「手、繋ごうか」
「……いいよ」
私が肯定すると、瀬野は小さく笑って。
それから手を繋がれる。
周りから見てもちゃんと恋人同士に見られるだろうかと思いつつ、水族館へと目指して歩いた。