愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




信号が青に変わり、足に力を入れて自転車を漕ぎ始めたその時───



「……川上さん?」


その声は突然耳に届いた。

車が通る音にかき消されることなく、はっきりと耳に届いたのだ。


思わずブレーキをかけて止まる。

周りを見渡したその時、公園から出てきたであろうクラスメイトの姿があった。


「瀬野くん、まだ帰ってなかったの?」


わざと驚いたふりをする。

視界に映っているのは、紺色のマフラーを巻いてもなお鼻を赤く染めている瀬野涼介(せのりょうすけ)だった。


いつも友達に囲まれているイメージが強い瀬野は、今ひとりでいることに違和感を覚えるほど人気者である。

そんな彼がどうしてひとりなのか、気にはなるけれど驚くほどでもない。

< 4 / 600 >

この作品をシェア

pagetop