愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
うまく騙せたようだ。
春美と真弥は私の話が聞けず、少し不服そうだったけれど。
「教えてくれてありがとう、瀬野くん!」
「気にしないで、大丈夫だよ」
相変わらず崩れない爽やかな笑顔。
今朝の焦った様子の瀬野が嘘のよう。
ふたり並んで職員室の“方向”へと足を進める。
ようやく落ち着けたのも束の間。
「おい涼介〜!
噂のふたりでなに歩いてんだよ!」
「愛佳ちゃん!
やっぱり瀬野くんといい感じなんだね!」
学年問わず人気者の瀬野とそこそこ人気である私が揃えば、少し…いや、かなり面倒だ。
何が面倒って、他クラスにも友達がいるのだから、こうして話しかけられることだ。
なんとか笑って誤魔化し、その場を切り抜けながら歩く。
「こっちだよ」
案の定、瀬野は職員室のある1階には降りず、逆に階段を上ってしまう。
「あの、瀬野くん。どこに行くの?」
「人目がつかないところだよ」
もしかして屋上とでも言うのだろうか。
立ち入り禁止の屋上に行けば、相当な罰を食らわされることだろうに。