愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「今までの代償がこのお金ってことだよね?
本当にふざけてるなぁ」
「……」
「なに、もう自分の前には現れるなって?
それとも母親が何処かに行ったってことかな。
見る限り生活感のない部屋になってるからね、いつから居なくなったんだろう。自分を捨てた父親のもとにでも行ったのかもしれないね。バカだなぁ」
「───瀬野」
思わず彼の名前を呼ばずにはいられない。
さすがの私も、黙って見られなかったのだ。
「落ち着いて、瀬野」
「……っ、いなくなって安心できるはずなのに、どうしてこんな…」
「瀬野…!私の目を見て」
「……え」
じっと彼を見つめると、揺らいでいる瞳が私を捉えた。
少しでも落ち着かせようと、彼の震えた手を自分の頬へと持ってくる。
熱の下がったそれは少し冷たかった。
「ほら、私がいる。
あんたはひとりじゃない」
孤独なんて言葉を、私の手で消してやりたかった。
私だってひとりだと思っていたけれど。
瀬野と出会えて、ひとりじゃないと思えた。
だからどうか、瀬野も───
「…っ」
震える手が私の背中にまわされる。
彼が力いっぱい、私を抱きしめてきたのだ。