愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「ひとりだなんて思わないで」
「……うん」
「大丈夫だから」
あくまで冷静に。
慌ててはいけない。
取り乱した彼を落ち着かせるための対応をとる。
「……こんなお金、俺はいらない。全部川上さんにあげる、だから…川上さんのそばに俺を置いて」
「私もいらない。お金なんかなくても、私はあんたのそばにいてあげるから」
そんなモノがなくても私は瀬野を見捨てないというのに。
今もまだ、彼は苦しめられている。
母親、そして父親の存在に。
けれど───
【ごめんなさい】
たった6文字の謝罪文。
理由も何も書かれていなかった。
言い訳ひとつなどなく、その謝罪の言葉と簡単には用意できないお金を残して母親はこの家を出て行った。
その意図は、何───?
せめてもの償いだとしたら。
瀬野の母親は自分の犯した罪を自覚していることになる。
本当に何も思っていないなら、このお金は自分のために使うだろう。
謝罪の言葉ひとつ残さずこの家を去ることだろう。
何かが胸に引っかかる。
素直に思った、瀬野の母親にもう一度会いたいと。
「……落ち着いた?」
「ごめん、川上さん。
まだ離したくない」
気づけば手の震えは止まっていたけれど、まだこのままの状態でいたいらしい。
もちろん私は拒否しない。
ただじっとしていた。