愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「……今日は家でご飯食べよっか。せっかくだから一緒に作る?別に私が作ってあげてもいいけど」

「今日はずっと一緒がいい」

「じゃあ一緒に作るか。
また今度、瀬野の言う和食のお店に連れてってよ」

「……うん」


ようやく落ち着いた様子の瀬野が私を離す。

『ごめんね』と謝って微笑んだけれど、その笑顔はどこか切なげだった。


「じゃあ早く用を済ませて帰るよ。
ここで待っといてあげるから」

「……ありがとう」


私の言葉でようやく瀬野が動く。

彼がここに来た目的を終えたところで、長居することなく家を後にした。


行き道は瀬野が私の手を握っていたけれど。
帰りは私が瀬野の手を握って先を歩く。

余計なことは考えさせないように、歩くスピードを速めた。


どうしても、瀬野の母親が彼を置いて逃げたとは思えなくて。

父親の元へ行ったとも考えられない。
どちらかと言えば罪滅ぼしをしているような、そんな気がした。


その中で私の胸に抱く思いはただひとつ。
過去に囚われたままの瀬野を放ってはおけない。

忘れろとまでは言わないけれど、それを含めて乗り越えてほしい。


瀬野の何気ない言葉で、行動で救われたように。
今度は私が自分の全てを使って───

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