愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜


「……ごめん、会う気なんてない」
「それだと瀬野が…」

「本当は今も忘れたくて仕方がないんだ。もう何も考えたくない、川上さんがいればそれでいい」


それだとダメなの。
本当に気づいていないの?



瀬野には守らなければいけない仲間がいる。

強く在らないといけないって、瀬野自身も言っていたというのに。


これから大きな敵との衝突があるかもしれない。
それなのに、一番トップの彼が弱気でいていいのだろうか。


「……そっか」


ただ今は瀬野の意思を否定したい。
否定してしまえば、さらに滅入ってしまうかもしれない。

あくまで寄り添うように。
けれどいい方向に持っていきたい。


何かいい方法はないかと思ったその時。
テーブルの上に置かれた瀬野のスマホが音を立てた。

ふたりして見ると、画面には【莉乃】と表示されていて。


けれど瀬野はそれを確認すると、スマホを手に取らずに私をギュッと抱きしめてきた。


「……とらないの?」

「今はいい。
会いたいって言われるだけだろうから」

「会ってあげなよ。
莉乃ちゃんは今の環境に苦しんでるんでしょう?」


ある意味チャンスだと思った。

瀬野が莉乃ちゃんと会っている間に、私はアジトに行きたかったのだ。

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