愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
もし屋上であれば、さすがの私も断ろうと心に決めた。
そもそも4階まで上った今、そこに人などいない。
ここまで来ればもう十分だというのに。
「はい、着いた。ここだよ」
「……え」
けれど瀬野は4階より先の、屋上がある階段を上ることはなく。
連れてこられたのは、4階にある図書室の横に位置した、小さな部屋のドア前だった。
瀬野は躊躇いもなくポケットから取り出した鍵を回し、中を開ける。
「え、瀬野くん…?」
「大丈夫、利用の許可はとってあるから」
躊躇う私の腕を引き、迷わず中に入らされる。
初めて入ったその場所は、教室なんかではなく本当に部屋のようだった。
「ここは…?」
まずは靴を脱ぐ玄関のようなスペースがあり、次に段差を乗り越えれば床は畳になっていた。
四畳の小さな部屋にはテーブルが置かれ、向かい合うようにして座布団が二枚敷かれている。
「相談室だよ」
「相談室?」
「ここは悩みを抱えた生徒たちが保健室以外での逃げ場になってるんだ」
そんな場所、聞いたこともなかったから素直に驚いた。
確かに図書室に行くたび、このドアの先には何があるのだろうかと気になっていたけれど。