愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
いや、違う。
瀬野のことだから───
「まるで観察するような目だね」
「……っ!?」
突然瀬野の手が伸びてきて、私の目尻に触れる。
穏やかな笑みが少し怖いと思った。
「あまり印象に残ってなかったのはそのせいか」
「せ、瀬野く…」
「互いに全く興味がなかったんだなって。
自分から行かないから交わらないわけだ」
何を言っているのかさっぱりわからなくて。
ただただ呆然とする。
もはや思考回路は放棄したのも同然である。
「川上さん」
「は、はい…!」
「今度、お礼させてよ。あんなに良くしてくれたのに、何もしないのは嫌だから」
突然話が変わる。
まだ頭は追いついていないというのに。
「お礼なんてそんな…気にしないで?」
願わくば私と関わらないで欲しい。
瀬野のせいで面倒ごとが増えているのだ。