愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



風雅さんに今の顔を見られたくなくて、先を歩く。

そして家の鍵を開けて中に入ると、ご飯のいい香りがした。


もしかして瀬野が作ってくれたのだろうか。


「あっ、川上さん。お帰り…」
「すげぇいい匂いがするな」

瀬野が玄関に顔を覗かせたかと思うと、私より先に風雅さんが口を開いた。


「……風雅さんじゃないですか。
川上さんを送ってくれてありがとうございます」

「ああ、別に気にすることねぇよ。川上さんが俺を頼ってきたからには、最後まで責任持たないとな」


何だろう。

風雅さんはわざと誤解されるような言い方をしている気がする。


それも嬉しそうに笑っているため、余計にタチが悪い。


「ちょっ、風雅さん。言い方が…」
「俺も腹減ったなぁ」

「えっ?」


風雅さんはまるで少年のように目を輝かせ、私をじっと見つめてきた。


「……確かに良くしてもらったので、お礼をしないといけないですね」


こんな顔をされて断れないに決まっている。

それにお礼もしたいため、ここは風雅さんの希望を受け入れようと思った。

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