愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「手伝ってくれてありがとう。
すごく助かったよ」
「別に、お礼を言うのは私の方でしょ?
ありがとう」
「……うん、どういたしまして」
少し恥ずかしかったけれど、ここは素直にお礼を言う。
すると瀬野は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ねぇ、川上さん」
「……なに?」
ようやく完成し、料理を部屋に運ぼうと思ったその時。
瀬野に声をかけられ、彼の方を向いて反応したタイミングを狙われて───
「…っ!?」
唇にキスを落とされてしまった。
触れるだけの軽いキスだったけれど、不意打ちに顔が熱くなる。
「俺以外の男を見ないでね?」
「ば、バカっ…そんなの、知ってる…」
私が瀬野のものだってくらい、知っている。
けれど───
『お前の存在が瀬野を弱くする』
あの男の言葉が頭から離れてくれない。
私の存在が仁蘭を負けに導いてしまうかもしれないのだ。
私が瀬野から離れない限り、彼の負担は大きいの。
それに今の煌凰には雷霆の戦力も加わっている。
正面衝突をして多くの人たちが怪我を負うくらいなら、話し合いで誰も怪我することなく終わってほしい。
私が離れさえすれば、瀬野にも新たなる選択肢が増えるかもしれないのだ。