愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「川上さん」
「な、なに…?」
瀬野に名前を呼ばれ、ようやくハッと我に返った。
「俺が家事をしておくから、先にお風呂入っておいで」
「え、いいよ私がや…」
「大丈夫だよ、俺がやる。
川上さんは疲れただろうから」
恐らく私を労ってくれているのだろうけれど、何やらその言い方にトゲがあるような、ないような。
何とも複雑であり、素直にお礼を言えない。
「……わかった」
やると言ってくれてるのだからお願いしようと思い、私は先にお風呂に入る。
その時にいつ瀬野に今日の話をしようかと考えていた。
けれど良い方法が見つからない。
突然母親の話をされても戸惑うだけだろう。
「はぁ…」
瀬野の母親と、次の休日に彼を連れて行くと約束したのだ。
前日に話すよりも、心の準備期間として早めに言っておいた方が良いだろう。
やっぱり今日話すんだと決めてお風呂から上がる。
まずは髪を乾かしながら、瀬野がお風呂に入り終えるのを待った。