愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



途中、髪を乾かし終えて鞄の整理をしていると見知らぬスマホが目に入って。

煌凰の総長から渡されたものだと気づく。
やはりあの時の出来事は夢でなかったのだ。



鼓動が速まるのがわかる。
ああ、私は煌凰の総長から逃げられないのだと。

このスマホが私の恐怖心を駆り立てる。
一体私はどうすれば───



「…っ」

その時、ガタンと洗面所から音が聞こえてきた。
瀬野がお風呂から上がったのだ。


慌ててスマホを鞄の中に直し、定位置に戻る。
このことは絶対にバレてはいけない。


興味のないテレビに視線を向け、そこに集中しているフリをする。

瀬野は特に言葉を発することなく、私の隣へとやってきた。


「ねぇ、川上さん」
「……なに?」

「髪、乾かして欲しいな」
「えっ…何で急に?」


瀬野にしては珍しい。

私の髪を乾かすと言ってくれることはあるけれど、そのように頼まれたことはないのだ。


「川上さんがドライヤー持ってるから、ついでに乾かして欲しいなって」


別に嫌ではなかったため、素直に乾かしてあげる。
なんだか瀬野が幼くなったみたいだ。

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