愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「はい、乾かし終えたよ」
ちょうど良いタイミングで髪を乾かし終えたため、なんとか話を逸らすことができた。
ドライヤーのコンセントを抜き、それを元の位置に戻す。
「ありがとう、川上さん」
「ん、綺麗に乾いてる」
瀬野の髪に手を伸ばして指を通せば、ドライヤーで乾かしたばかりのため、温かくなっていた。
乾かし残しはなさそうだと思い、手を離して瀬野の隣に座り直した。
「……」
その後、少し嫌な沈黙が流れる。
そのように思っているのは私だけだろうか。
いつもは寝る前に瀬野が私に触れてくるのだけれど、今日はそれがなくふたりしてテレビに視線を向ける。
瀬野も興味がなさそうだし、私だって興味のないバラエティ番組だった。
なんだか調子が狂う。
いつもの瀬野がそこにいないみたいだ。
別に良いのだけれど。
毎日瀬野に触れられないとやっていけないわけじゃないのだ。
ただ少し気まずいだけ。
それとも逆にチャンスなのだろうか。
この静かな空気の時に、瀬野の母親の話をするのは。
好機と捉えて話してしまった方が良いかもしれない。
一度気持ちを整えて、覚悟を決めてから口を開く。