愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「……川上さん?」
「過去の恐怖は簡単には消えないと思う。でもこのままだと瀬野は一生過去に囚われたままだよ」
「……うん」
「両親が亡くなってから、私もずっと苦しかった。
でも、瀬野がいたから救われた部分も大きいの」
両親との楽しかった思い出の方があるんだってことを気づかせてくれた。
過去と向き合おうと思えた。
ふとした瞬間に寂しくなる時もあるけれど、それすらも瀬野が消してくれる。
だから今度は私が───
「怖いだろうけど、大丈夫。その恐怖が消えるくらい、私があんたのことを愛してあげるから」
「……え」
瀬野と少し距離をあけ、目を合わして自分の思うままに口にした言葉。
彼の驚いた表情を見た数秒後、いま自分が何を言ったのかを理解した私。
途端に顔が熱くなるのがわかる。
「えっと、今のは…そう!
あんたが母親と会って向き合うって決めたらの話!
もし受け入れたらそりゃ私だってあんたのことを…愛してやらなくも、ないけど…」
何という恥ずかしいセリフを口にしていたのだ。
我に返った途端に恥ずかしくて堪らなくなる。