愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
そのような私を見て、瀬野はしばらく静止していたけれど───
「…ふはっ」
彼はようやく笑みを浮かべた。
自然の笑顔だった。
彼は私の背中に手をまわし、抱きしめられる。
「そっか、それなら断れないね」
「えっ…」
「川上さんがいっぱい愛してくれるんだよね?
それなら母親と会うことを快く受け入れないとね」
「あ、会ってくれるの…?」
「川上さんもついてきてくれる?」
「も、もちろん行く…!
あんたが会うって決心してくれたなら」
瀬野の表情は不思議と明るく見えた。
というより、どこか吹っ切れているように思える。
「決心したよ。
だから川上さんの愛もたくさん欲しいな」
「…っ、私だけじゃ嫌」
「もちろんだよ。
俺もたくさん川上さんを愛してあげるからね」
瀬野はどうして恥ずかしげもなくさらっと言えてしまうのだ。
そこが少し悔しいけれど、私と同じ言葉が返ってきて満足する。
「うん、じゃあ今週の休日に会いに行くよ」
「早速会うの?」
「心変わりする前に!」
「そっか、わかった。早いうちに会っておくね」
少し粘るかと思ったけれど、すぐに受け入れてくれた彼。
これで一安心である。
あとは母親と会ってからの経過を見守るのみである。