愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



恥ずかしさのあまり、涙目になる中で。
瀬野がほんの一瞬、触れるだけの軽いキスをしてきた。


違う、それでもない。

目で訴えようとしたけれど、瀬野の表情を見た時にそれはわざとだとわかった。


「……瀬野なんて嫌いだ」
「そんな顔で嫌いって言われてもなぁ」

「…っ」
「ほら、欲しがって良いんだよ?」


甘い声、誘い。
恥ずかしさの限界なんてすでに超えている。


「……欲しい」
「何が欲しいの?」

「───とびきり甘いの」


これ以上は言えない。
絶対に言えない。

十分頑張った方だ。
だからどうか、認めて欲しい。



「本当は言わせたかったんだけどな。
何して欲しいかって」

「…っ、やだ」

「それでも初めてにしては、かわいいおねだりができたね」


満足気に笑う瀬野。
ようやく許してくれたようだ。


「じゃあ川上さんの甘い声をたくさん聞かせて」


けれどまた意地悪く笑う瀬野に、私は抗えそうになくて。

甘く痺れる夜は、まだ始まったばかり。

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