愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
決心のココロ
ふたりの間には、静かな空気が流れていた。
週末の休みの日。
病院の最寄駅から出ているバスに乗り込み、瀬野とふたりで母親の元へと目指す。
「……行き先は病院?」
バスの行き先を知った様子の瀬野は、窓の外に視線を向けながらゆっくりと口を開いた。
「……そうだよ」
「そこに俺の母親がいるの?」
ようやく瀬野が私を見た。
その瞳はどこか不安気で。
「……うん」
私の口からは何も言わない。
瀬野の母親から話を聞かなければ意味がないのだ。
「仕方ないから手を繋いであげる」
その不安な気持ちを和らげてあげようと、瀬野の手を取った。
けれどまだ震えてはおらず、大丈夫そうだ。
「なんだ、意外と平気そうだね」
「どうだろう。川上さんがいてくれるおかげかな」
まだ笑う余裕のある瀬野。
けれど、その笑顔はどこか嘘っぽい。
無理しているのだろうか。
それからまた、ふたりの間に沈黙が流れる。
どちらも口を開くことなく、バスの中から見える外の景色を眺めていた。