愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
病院に着くと、瀬野の手を引いて病院内へと足を踏み入れる。
エレベーターに乗ったところで、瀬野が私の手を強く握る。
彼から緊張しているのが伝わった。
微に指先も震えている。
「……大丈夫」
ギュッとその手を強く握り返す。
恐れなくていい。
だって、瀬野の母親は多分───
「うん、ありがとう」
瀬野も覚悟を決めたようで、立ち止まることなく母親のいる病室へと向かう。
扉は閉められており、一度息を吐いた彼が自分でその扉を開けた。
自分の母親に会うために───
「…っ」
病室の中を覗くと、扉を開ける音に気づいた瀬野の母親がこちらに視線を向けていた。
真っ先に瀬野と目が合ったようで。
彼女は体を起こし、その目を見開かせていた。
「りょ、すけ…」
か細い声だった。
化粧をしていない彼女は、やっぱり瀬野と雰囲気が似ている。
彼女はゆっくりと近づいてきた。
その目に涙を溜めながら。
瀬野は彼女の反応に驚き、固まったまま動かない。