愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「こんなダメな母親で、本当にごめんなさい…」


自分の母親の泣き顔を初めて見たのだろうか。
瀬野は明らかに戸惑っていた。

恐怖以外の感情を母親に対して抱きはじめたところで、彼女は瀬野を抱きしめた。


背伸びをして、瀬野の全てを包み込むように。



「……ごめんなさい、ごめんなさい涼介」

その間も彼女は泣き、ずっと謝っていた。
心の底から悔いていた過去にようやく向き合うことができたのだ。


もしかしたら彼女は、ずっと後悔して謝りたかったのかもしれない。

けれどその機会を作ることができなかった。
なぜなら瀬野は彼女に怯え、なるべく会わないようにしていたから。


だから彼女はせめてもの償いとして、なるべく瀬野と会わないようにする選択をとった。

その結果、ふたりは交わることなく過去に縛られたままだったのだ。


どれぐらいそうしていたのだろう。
ようやく瀬野が彼女に向けて言葉を発した。

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