愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「それより今日は来てくれてありがとう。
嫌だったでしょう、私と会うのは」

「……ひとりなら来てなかったかな」


瀬野が私を見て優しく微笑む。
どうやら余裕が芽生えてきたようだ。



「川上さん、よね。
今日は本当にありがとう」

「いえ…私は別に」


感謝されることでもない。
ここにくる決断を最後にしたのだ瀬野自身だ。

私はその間を担っただけである。


ここから先は私の力など関係ない。
ふたりがどうするか、である。

瀬野はもう怯える様子はなかったけれど、ふたりの会話はどこかぎこちない。


ぎこちない中でも、彼女は過去について瀬野に話していた。


妊娠したと知った時、とても嬉しかったこと。
産まれた時、幸せに満ち溢れていたこと。

そして───


最愛の男性(ひと)に裏切られ、自暴自棄になったこと。

父親と血の繋がりがある瀬野を見るのは辛くて、現実逃避をして。


それでも我慢できなくて、手をあげてしまった後悔。
一切良いように言わず、彼女はただ事実を述べていた。

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