愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
瀬野は表情を変えることなく、黙ってその話を聞いていた。
彼がどう思ったかわからない。
けれど親子としての関係に戻れるかもしれないという、スタート地点には立てたのだ。
ここからは瀬野と母親次第なのである。
ただそれが、決して安易な道ではないことは確かだ。
恐怖を植え付けられた過去は、そう簡単には消えないのだから。
けれど───
「本当にごめんなさい、涼介…」
「もう謝罪の言葉は聞き飽きたよ」
今のふたりを見ていると、もう大丈夫そうな気がした。
「あの、私は外に出ていますね」
私に気を遣われては困ると思い、大丈夫だと判断した時点でそう口にした。
「えっ…」
瀬野も母親も驚いた様子だったけれど、元々そうするつもりだった。
「私は外で待ってるから、ちゃんと向き合ってくるんだよ瀬野」
「……うん、ありがとう川上さん」
過去と、そして目の前にいる母親と。
私の意思が伝わったようで、瀬野は微笑みながらもしっかりと頷いた。