愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
それを確認した私は、病室を後にする。
どうかこの先、ふたりが幸せいっぱいの親子関係に戻れますように。
突然失うかもしれない中で私たちは生きている。
だからこそ余計に後悔して欲しくない。
一分一秒を無駄にせず、ふたりには親子として過ごしてほしい。
そのため、瀬野は裏の世界から離れるべきで───
「……はぁ」
ため息をひとつ吐いた。
まだ私の中に迷いがあるのかもしれない。
決めたはずなのに。
邪魔者である私は瀬野から去るということを。
正直、私が煌凰に行ったからって瀬野がどう動くかはわからない。
もしかしたら響くんも私のように煌凰の総長の条件を呑むかもしれないし、断るかもしれない。
瀬野と響くん、共に煌凰を潰す選択をとる可能性もあるだろう。
けれど───
私があえて瀬野から離れるだけで、彼は守るものが減る。
それだけでも十分瀬野のためになるだろう。
少しでも負担を減らしたい。
願わくば、母親との時間を優先してほしい。
過去に苦しめられた分、もう辛い思いはしなくていいように。
こんな風に“誰かのため”と思い、行動する日が来るだなんて。
少し前の私では考えられなかった。
本当に不思議なものである。
病室から離れ、その階も離れた私はスマホを取り出した。
それも私のものではない、煌凰の総長に渡されたスマホを───
まるで相手は電話が来ることをわかっていたかのように、数回のコールの後に電話にでた。