愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
『……案外早かったな』
「どうせ知っているんでしょう?
私たちが病院にいること」
この間も居場所を掴まれてしまったのだ。
また見つけられていることだろう。
『ははっ、さすが川上さんだな?』
どうやら今日もまた、私たちのそばにいるようだ。
本当に不気味で怖い。
少しずつ歯車が狂っていく。
「でも今すぐにあんたのところには行けない。
1週間、私に時間を持たせて」
『……1週間、な。
1週間後にはもう、お前は俺のものになってるのか』
スマホ越しに聞こえる嬉しそうな、勝ち誇ったような声。
悔しい気持ちもあるけれど、私の行動が全部瀬野のためになるのだ。
『そういえば良いものをお前に渡してやるよ』
「……良いもの?」
私にすれば、良いものとは到底思えないのだけれど。
相手に指定された場所へと向かう。
そこは病院の駐車場にある一台の車の前だった。
運転席には手下であろう男がひとりと、後部座席に彼が座っていたのだ。
彼は私を手招きする。
どうやら私も車に乗れということらしい。
抵抗しても無駄なのだから、ここは大人しく彼の隣に乗り込んだ。
「そんな敵意剥き出しにすんなよ。
もうすぐで煌凰の仲間入りなんだから」
男の手が私の肩に触れる。
そして強引に抱き寄せられ、彼と密着状態になった。