愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



ああ、嫌だ。
他の男に触れられることに嫌悪感を抱く。


「それで、瀬野は母親と上手くいきそうか?」
「……さあ」

「まあ、上手くいくから電話してきたんだろう。
これで瀬野も過去と向き合えたんだから良かったな」


感情のこもっていない声。
本心ではないくせに。

むしろ嬉しいはずだ。
脅しの材料がまた増えて。



「あんたも上手くいきそうで良かったじゃない。望み通り私が手に入って。私が欲しかったんでしょ?」


軽く挑発してみたけれど、この男は依然として冷静だった。


「そうだな、たまにはお前みたいな女でも良い」
「さっさと飽きればいいのに」


私が本気になることはない。
きっと私を本気にさせるのは、この世でひとりだけ。

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