愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「川上さん?何見てるの?」
「あ、いや…なんでもない」


瀬野に声をかけられ、ハッとする。
何を考えいるんだ私は。

ココアの粉を見て、“あの時”に使えそうだと思うだなんて───



「今日、結構買ったね」

買い物を終えると、瀬野が何気なくそう呟いた。
実は私も思っていたことだ。


今日は余計なことを考えないようにと思い、余分なものまで買ってしまった気がする。



「それにお菓子とか普段食べないのに、川上さんが買うだなんて珍しいな」

「べ、別に…安かったし、それに…」


慌てて言い訳を考える。
焦ることなく、冷静にと言い聞かせながら。


「た、たまにはいいでしょ…だらけた時間も」


それでも上手く頭が回らなくて、言葉選びに失敗してしまったかもしれない。

だって今の言葉で瀬野は、嬉しそうに微笑んでいるのだから。


「そのだらけた時間に俺も入ってる?」
「…っ、し、知らない!」

「今日はふたりでお昼寝して、だらけようか」
「その前にご飯食べたいの私は!」

「もちろんご飯が第一優先ね。
どうせなら俺の腕の中で眠ってよ」

「手を出されそうで怖いから嫌」


下心があるとしか思えない。
瀬野の腕の中で寝ろだなんて。

落ち着きそうな気はするけれど。
口では否定しておく。

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