愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「川上さん?
それ、なに隠してるの?」
やっぱり瀬野はすぐに気付く。
私の異変に。
けれどこれが“偽り”であることには気づいていない。
「な、なんでもいいでしょ!」
きっといつもの私ならこう言って、真っ先にキッチンに向かって。
それを隠そうとするだろう。
そしたら瀬野が───
「……ココア?」
「…っ」
予想通りだったけれど。
突然後ろから抱きしめるように手をまわされ、思わずドキッと高鳴る胸。
耐性なんてつきそうにない。
「連絡しなかったのは、これを買いたかったから?」
「……だって、せっかく買ったのに…特別感がないでしょ」
「もしかしてマグカップのこと?」
「……知らない」
瀬野は鋭いから、簡単に意図がわかることだろう。
こうなることを待っていた。
「本当にかわいいね、川上さんは。でもひとりで帰るのは危ないから、ちゃんと俺に連絡しようね」
「別に、大丈夫」
「何かあってからだと遅いんだよ」
もうこのような心配をかけることもないから大丈夫。
自ら敵陣に向かうのは笑えてくるけれど。