愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「これを…」


小さな封筒に入れられた睡眠薬を取り出す。
これをココアに潜ませて、あとは瀬野が眠るのを待つだけ。

簡単なのに、その瞬間に全てが崩れていくのが怖い。
いつの間にか、こんな風に思うほど好きになっていたのだ。


恋というものに無縁だった私が、瀬野と出会ったことによって。

彼は私に『たくさんの初めてをくれる』と言うけれど、私も同じ気持ちだ。


瀬野の出会ってから、自分自身でもわかるほどの変化がある。


「あれ…」

視界が歪む。
その理由は、目に浮かんだ涙だった。


本当に私らしくない。
こんな風に体が拒否しているだなんて。


気づいて欲しい。

その思いの割合が増えていく中で、意思を曲げないように上着のポケットにそれを入れた。


中途半端な終わり方は一番ダメだ。
やると決めたのならやるのだと。


しばらくして瀬野がお風呂から上がる。

すぐにココアを準備するのも不自然だと思い、彼が隣に来るのを待った。


案の定、瀬野はすぐ隣にやってきて。
触れて欲しいと思う自分を必死で抑えた。

いつも通り、瀬野に肩を抱き寄せられるのを待つ。


「川上さん」
「……なに」

まるで私の気持ちを読み取ったかのように、瀬野はすぐ私の肩を抱き寄せてきた。

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