愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「明日はお見舞いとして、何か買って行かないとね」
「本当だ、何がいいだろう」

「お母さん、何か好きなものとかある?
花でも食べ物でも」

「うーん、どうだろう…俺、何も知らないな」

「まあこれから知っていけばいいんじゃない。
ここは無難に果物とか花だね」


ふたりで話しながら、明日の予定を立てる。
それが余計に苦しかったけれど、敢えて平気なフリをした。


「本当にありがとう。
川上さんに助けてもらってばかりだな」

「これで変われたらそれで良いんじゃない?
きっかけなんて人それぞれだし」

「俺のきっかけはあの日、川上さんに声をかけたことだな。本当に良かったって、今でもずっと思ってる」

「私にすれば最悪だけどね」
「またそんなことを言う」


本当に最悪だ。

あの日のことがなければ、こんなに苦しい思いをすることもなかった。


けれど“苦しい”以外の感情も知ることなく終わっていた。

だから私も瀬野に声をかけられて、あの日彼を受け入れて良かったのかもしれない。

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