愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「まあでも…たまにはいいかもね」
「えっ?」
「こんな風に、恋人らしいことをするのも」
瀬野が待つマグカップの位置に、自分のマグカップを近づけてみる。
お揃いのマグカップに、同じココアを飲んでいる。
瀬野とこのような関係になるだなんて、考えもしなかった。
「恋人?新婚夫婦の方が合ってない?」
「なっ…馬鹿じゃないの!
そこまでいくかわからないのに」
「えー、俺は結婚を前提に付き合ってるけどな」
「はぁ!?あり得ないから、そんなこと一言も言われてない」
何が結婚を前提に、だ。
そんな関係になった覚えはない。
「もちろん言ってないからね。
でも俺は本気だよ」
「…っ、私は知らない」
「今更、川上さんを手放せない。
俺が独り占めするんだ」
気のせいだろうか。
私を見つめる瀬野の目が、トロンとしているような気がする。
どこか眠そうだ。