愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「それで、どうすればいいの」
『10分後に家を出ろ。
外で待ってるから』
「……わかった、じゃあ切るよ」
どうやら相手は迎えに来るらしい。
嬉しくない迎えだ。
スマホを切って、それをポケットに直す。
ゆっくりと立ち上がり、まとめた荷物を玄関に持っていく。
「……瀬野、は…」
ぐっすり寝ている。
寝顔まで恨めしいくらいに綺麗だった。
私は瀬野の隣に腰を下ろし、肩に頭を置いた。
けれど彼はピクリともしない。
目が覚めたらどう思うだろう。
私がいないこの部屋を見て、瀬野は真っ先に何を思う?
必死で私を探してくれるのだろうか…なんて、それではダメだ。
ふと一言でもメッセージを残そうと思い立った私は、ルーズリーフを用意する。
自分の感情が読み取られないよう、【ごめん】とだけ書いたけれど。
瀬野の母親が残した謝罪のメッセージと同じだと思い、結局【さようなら】という素っ気ないメッセージが完成してしまった。
「バカみたい」
一瞬ルーズリーフを丸めて捨てようかと思ったけれど、何も言葉を残さないと拐われたと勘違いして本気で探されそうだ。
そのため捨てるのをやめ、テーブルの上に置く。
時間を確認すると、指示された10分後まであと少しとなっていた。
これが夢だったらどれだけ良かっただろう。