愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
このまま私も目を閉じて、同じように眠りについて。
目が覚めた時に『ふたりして寝ていたみたいだ』なんて、くだらないやり取りをして。
きっと瀬野は優しい笑みを浮かべることだろう。
「明日、ちゃんと母親のところへ会いに行くんだよ」
ようやく前に進もうと思ったのだ。
どうかその決意を無駄にしないでほしい。
それから───
「……あーあ、本当にバカみたい」
目頭が熱くなり、視界が歪む。
温かなそれが頬を伝った。
こんな終わり方、本当は嫌だ。
いつの間に私はこんなにも彼に堕ちていたのだろう。
男に興味などなかったし、好きになるだなんて考えもしなかった。
初めて自分を偽らずに接することができた人。
そんな私を受け入れてくれた人。
「あ、そういえば…」
私、一度も瀬野に対して“好き”だと言葉にしたことがなかったっけ。
もう眠っているから、意味がないかもしれないけれど。
瀬野の肩に手を置いて、一度だけ頬にキスを落とした。