愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
*
車の後部座席に私はいた。
隣には、煌凰の総長が満足気に座っている。
「これでお前も晴れて煌凰の一員だな」
「……どこが晴れてなの?」
「堂々と俺の隣にいていいんだよ。
今日からお前は俺の女だ」
拒否権など私にはない。
ただ受け入れるしかないのだ。
「私はまったく嬉しくないけどね」
「まあ今はそうだろうな」
まるで私のことをわかっているような口ぶり。
余裕そうな笑みが崩れることはない。
「私を女にする意味はあるわけ?」
「あの瀬野が本気で惚れ込んだ女だ、気になるのも当然だろ?」
ドスの効いた声は威圧感があり、怯んでしまいそうになる。
けれど負けじと睨み返した。
「私があんたを好きになることなんて絶対にあり得ないから」
「それは今、お前の中には瀬野がいるからだろ?
俺が忘れさせてやるよ」
その時、彼と目が合ってしまう。
鋭い目つきが私の体を固まらせた。
「まあ、そう固くなる必要はねぇよ。
その強気な表情が崩れるのが楽しみだな」
ああ、これから私はどうなるのだろう。
全てを汚される覚悟が必要だろうか。
不安を抱く間も、車は私の知らない目的地へと走り続けていた。