愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「突き放す選択肢しかないでしょ」
「まあな。もう後戻りはできねぇから。
お前のおかげで均衡が崩れた、本当に感謝だな」
「…っ」
私が、私がいたから。
これまで何度も狙われ、そして危険な目に遭ってきた。
今までは瀬野の戦略のおかげで勝ててきたけれど、上手くいっていたこれまでとは違う。
煌凰という敵は、思い通りにはいかない。
「このチャンスを逃さねぇ。
一気に畳み掛ける」
緊張感が張り詰める。
多くの手下が息を呑んだ。
どこか怯えているように見えるのは気のせいだろうか。
「安心しろ、瀬野は母親と幸せに暮らせることができるよう努力する」
「努力…?」
「もちろん相手から仕掛けてきたら、煌凰を守るために俺も黙ってられねぇ。
一番は平和に話し合いで終わらせることだが…仁蘭はどう動くだろうな」
何が“平和に話し合い”だ。
自分がトップに立たないと気が済まないくせに。
仁蘭をも煌凰に吸収して、この辺りのトップに立つことが彼の望みだろう。
相手の意見など、正直どうでもいいのだ。
もし話し合いでダメなら、手を下すのみ。
雷霆のメンバーも加わった今の煌凰に、仁蘭は立ち向かえるのだろうか。
どうか誰も怪我なく終わって欲しい。
私を守る手間がなくなった分、余裕を持って欲しいものだ。