愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
どうしても我慢できず、目に涙が浮かんだその時。
「───仁蘭がそこで何してるんだ?」
ドスの効いた声が聞こえてきた。
それはこの一週間の間で最も耳にした声だ。
全部、崩してきた相手。
けれど今はそのような彼───
剛毅さんが救世主に思えた。
「…っ!?」
「愛佳ちゃん、僕たちの後ろに来て!」
悠真くんと光希くんはやっぱり何も知らないようで、真っ先に私を庇うようにして立った。
その守る姿勢に余計泣きそうになる。
「煌凰の総長が何しに来たの?」
真剣な顔つきで剛毅さんを睨む光希くん。
けれど、手を出すことが目的でない剛毅さんは笑った。
「何って、自分の女迎えに来ただけだ」
「は?何言ってるの?
そんな嘘通用するわけ…」
「愛佳、帰るぞ」
「…っ」
光希くんが反抗する中、剛毅さんが私の名前を呼んだ。
「えっ…何言って」
「光希くん、ごめんね」
光希くんが驚いて状況を理解できていない中、私は彼に謝った。
それ以上説明することなく、剛毅さんの元に向かう。
もちろん瀬野の方は見れなかった。