愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「仁蘭の奴らに絡まれるなんて、とんだ災難だったな」
「……別に」
「瀬野とはちゃんと話せたのか?」
剛毅さんは、瀬野のいる方向に視線を向けていたけれど。
私は見ないように気を遣ってか、私の肩に手をまわし、抱きしめるような動作をされる。
そのため光希くんたちにも背中を向けることができ、今の状態に救われた。
「うん、もう終わった」
「そうか。よく頑張ったな」
こうなることがわかっておいて、そのような言葉をかけるのか。
「嘘、だよね…愛佳ちゃん」
驚きが混じった光希くんの声は少し震えていた。
そのような反応、されて当然だ。
「どうして…?何があったの?
どうして涼ちゃんは何も言わないの?」
思わず肩が跳ねる。
光希くんが瀬野に声をかけたからだ。
今、瀬野はどのような表情を浮かべているのだろうか。
怖くて見ることはできないけれど。
「……そうだ瀬野、“統一”の話はどうするんだ?こうして愛佳は俺を選んでくれたんだ、あとはトップの座さえ譲れば“統一”を呑んでやるぞ?」
勝ち誇ったような、自信に満ち溢れた声。
確かに今の煌凰は有利だ。
一体瀬野はどのように返すのだろうか。
まさか受け入れることはしないだろう。
少しの沈黙が流れた後、ようやく瀬野が口を開いた。