愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「だいぶ滅入ってるみたいだな」
行きと同様、剛毅さんが運転席に座って私が助手席に座る。
そんなの当たり前だ。
今日のことがあっても尚、平気なフリをできるほど強くはない。
「今日は家に直行するか。
今にも泣き出しそうな顔してるし」
「…っ」
最低なはずなのに。
全部彼が崩してきたというのに。
その気遣いが弱い心に沁みる。
優しいと思ってしまうほど、私は麻痺していた。
「よく頑張ったな。
お前の喪失は仁蘭にとっても大きいだろう。
これで状況は一変した。
この機会は絶対に逃さねぇ」
別に彼がどうしたいかなんて、私には関係ない。
いずれにせよ、これから起きる大きな闘いは避けられないのだ。
それは瀬野もわかっていた。
窓の外をぼーっと見つめ、家に着くのを待つ。
それ以降は一言も言葉を交わすことなく家に到着した。
ひどい喪失感に苛まれる中、制服を着替える。
今日のことは全て自分が選んだこと。
瀬野たちを裏切ったようなものだ。
これで良い。
これで良かったと思えるような結末を迎えて欲しい。
「…っ」
ボロボロだった。
少しのことですぐ泣きそうになる程、感情の制御が効かない。
こんなにも誰かを好きになることは辛い。