愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「私のことなんか放っておけばいいのに」
瀬野だってそう言っていた。
それで良かったのに。
「それができないからここに来たんだよ」
「…っ、どうして…」
「俺に話してよ、全部」
ああ、ダメだ。
中途半端な心は今も揺らぎ続けている。
「……お母さんと幸せに暮らしてほしい」
「え…?」
「危ない裏の世界から足を洗って、幸せに。
今からでも遅くないんだよ」
だから私は、逆に訴える。
瀬野の心に。
私のことなんて放っておけばいいからと。
「それが川上さんの本音?」
肩がビクッと跳ねたのは、彼のトーンがまた少し落ちた気がしたからだ。
「そう、だよ…だから」
「俺は大事な仲間を置いて、自分だけ幸せになろうなんてことはしたくない。逃げる選択なんて取らないよ」
「でもこのままじゃ…」
「煌凰に負ける?」
「…っ」
また怒らせてしまってかもしれない。
表情が見えない今、声で感情を判断するしかなかった。