愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「そっか、川上さんはそう思っているんだね」
「剛毅さんは一番を得るためならきっと、どんな手を使ってでも…」
「もういいよ」
瀬野は私から離れて、話を遮った。
また冷たさを感じられる声だった。
「今の川上さんには何を聞いても無駄みたいだから」
「……っ」
「俺たち仁蘭は勝つ気でいるよ。
これは絶対に負けられないから」
ああ、行かないで。
私に背中を向けた彼に手を伸ばしかけたけれど。
「でも、これだけは言わせて。
俺は弱っていく川上さんを放ってはおけないから」
気づけば涙が頬を伝っていた。
最後に瀬野がその言葉を残して去ってくれたおかげで、涙を見られることはなかったけれど。
「どうしてよ…」
どうして。
あんな酷いこと言って、忘れるために剛毅さんを受け入れて。
どこまでも自分勝手な私を、どうして瀬野は突き放さないのだろうか。
その気持ちが、今の私にはたまらなく苦しかった。