愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「うん、良い子」

瀬野は私の腰に手をまわして抱き寄せてくる。
先ほどと似たような体勢になった。


「もう邪魔は入らないだろうから」
「……ん」


ニコニコ笑う瀬野に対して、私はまたドキドキし始める。

やっぱり瀬野は私の心を乱してくるのだ。
意地悪だけれど、それすらも受け入れてしまう。


ゆっくりと綺麗な顔に近づけて、その唇にそっとキスを落とした。

一瞬だったけれど、言葉にできないほど恥ずかしくて顔がぶわっと熱くなる。


慌てて瀬野に抱きつく。
けれど彼はそれを許さない。


「川上さん、顔上げて?」
「…っ」

「照れてる表情も好きなんだよ、俺」
「意地悪…」

「しばらくは意地悪なことしかしないかもね?」


嘘。
そんなこと言って、触れてくる手つきは優しい。

それから私が求めれば───


瀬野は甘いキスをくれる。


「早く治さないとね、怪我。
そしたら川上さんにたくさん手を出せる」

「……治ったらね」
「しばらくは安静にします」

「うん、無理はしないで」


もうこんな風に怪我を負って欲しくない。
無茶なことはして欲しくないのだ。


「でも今日ぐらいは良いよね?
川上さんに手を出しても」

「……キスまでなら」


今日だけ、と言い訳をする。
明日からは身体を休めることに専念してもらうのだ。

瀬野は私の返しに笑って、またキスされる。
強引で甘いキスに溶かされてしまいそう。


深いキスの後、息が乱れながらも瀬野を見つめる。

涙が目に浮かんで視界が歪んでいたけれど、瀬野が優しい笑みを浮かべていることは何となく想像ができた。


「───もう、俺しか求められないようにしてあげる」


久しぶりの甘い時間に、私は酔いしれていた。

< 592 / 600 >

この作品をシェア

pagetop