愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「うん、良い子」
瀬野は私の腰に手をまわして抱き寄せてくる。
先ほどと似たような体勢になった。
「もう邪魔は入らないだろうから」
「……ん」
ニコニコ笑う瀬野に対して、私はまたドキドキし始める。
やっぱり瀬野は私の心を乱してくるのだ。
意地悪だけれど、それすらも受け入れてしまう。
ゆっくりと綺麗な顔に近づけて、その唇にそっとキスを落とした。
一瞬だったけれど、言葉にできないほど恥ずかしくて顔がぶわっと熱くなる。
慌てて瀬野に抱きつく。
けれど彼はそれを許さない。
「川上さん、顔上げて?」
「…っ」
「照れてる表情も好きなんだよ、俺」
「意地悪…」
「しばらくは意地悪なことしかしないかもね?」
嘘。
そんなこと言って、触れてくる手つきは優しい。
それから私が求めれば───
瀬野は甘いキスをくれる。
「早く治さないとね、怪我。
そしたら川上さんにたくさん手を出せる」
「……治ったらね」
「しばらくは安静にします」
「うん、無理はしないで」
もうこんな風に怪我を負って欲しくない。
無茶なことはして欲しくないのだ。
「でも今日ぐらいは良いよね?
川上さんに手を出しても」
「……キスまでなら」
今日だけ、と言い訳をする。
明日からは身体を休めることに専念してもらうのだ。
瀬野は私の返しに笑って、またキスされる。
強引で甘いキスに溶かされてしまいそう。
深いキスの後、息が乱れながらも瀬野を見つめる。
涙が目に浮かんで視界が歪んでいたけれど、瀬野が優しい笑みを浮かべていることは何となく想像ができた。
「───もう、俺しか求められないようにしてあげる」
久しぶりの甘い時間に、私は酔いしれていた。