愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「ねぇ、瀬野」
ふたりきりになれる場所に今日もやってきた。
そこで私たちは別れも経験した。
幸せな思い出だけじゃない。
それでも瀬野は、突き放そうとした私を再度受け入れてくれたのだ。
「瀬野?」
「……」
瀬野を呼んでも反応してくれない。
本当に意地悪だ。
「……涼介」
「うん、どうしたの?」
ほら、名前で呼べばすぐに反応する。
とことんズルイ人。
けれどそれ以上に───
「また私を受け入れてくれてありがとう」
私は瀬野のことが好きで好きでたまらない。
もう今更離れることなんてできなくて。
「お礼を言うのは俺のセリフだよ。
川上さんにはたくさん助けられてきた。
最初だって、川上さんが俺を受け入れてくれなかったら何も始まらなかったから」
「……うん」
瀬野に声をかけられたあの日。
本当に受け入れる選択をとって良かったと思う。
そうでないと私は、何も変われないままだった。
「でも、涼介…名前、呼んでくれないの?」
瀬野だって“川上さん”のまま変わってない。
それも癖なのだろうけれど。
私だけ呼ばされるのは不服だ。
瀬野は一瞬驚いた様子を見せたけれど、またいつものように優しい笑みを浮かべて私の頭に手を置いた。
「……愛佳、大好きだよ」
「…っ」
甘い声が私をクラクラさせる。
不意打ちで“好き”なんて、そんなの心の準備ができていないから無理だ。
耐えられない。
「うん、私も」
「……それだけ?」
「また求める…」
「それだけじゃ物足りないんだ」
優しい手つきで頭を撫でて、私の機嫌を取ろうとする瀬野。
もうすでに瀬野のペースに呑まれているというのに。
「……私も好き、涼介のこと」
次はいつ言葉にできるかわからないから。
これがチャンスだと思い、瀬野に“好き”という気持ちを伝えた。
「うん、愛佳は本当にかわいいね」
そして満足気に笑う瀬野が、ゆっくりと顔を近づけてきて───
素直に受け入れるため、目を閉じる。
そっと唇を重ねられ、高鳴る胸。
頬が火照って、もっと彼が欲しくなる。
瀬野の甘さに溺れた私は、求めるようにして彼の肩に腕をまわした。
END