愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
今、彼はなんて言った?
「あ、いや…誤解されないよう、ちゃんと川上さんの両親には話すからさ…」
焦っている。
困っている。
初めて見る、乱れた瀬野の姿。
新鮮だった。
瀬野も人間らしいところがあるんだって。
完全無欠なイメージがあったから。
「ダメ、かな…」
断れる覚悟で言ったのだろう。
眉を下げて申し訳なさそうにしていた。
もちろん一人暮らしの家に呼ぶのは色々リスクがある。
亡くなった両親のことがバレるかもしれないし、本性を見せてしまう恐れだってある。
だから断るのが妥当だ。
人気者の彼には他に行くあてがあるだろうと。
それなのに私はどうして───
「私で良ければ大丈夫だよ」
こう笑顔で答えたのだろうか。
“家から追い出された”、その言葉に何か惹かれるものがあったからかもしれない。