愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「サボらない、けど…」
「バイク、用意してもらったからそれに乗って帰ろう。家まで送るよ」
「バイク?」
「こう見えて免許、持ってるから」
相変わらず穏やかな笑みを浮かべて話す瀬野。
けれど内容はあまり良くないことである。
バイクの免許を持っていたとしても、二人乗りとなれば制限があるはずだというのに。
「別に、始発で帰るからいいよ」
「心配してるんだよ俺は。
川上さんがまた連れて行かれないように」
言い返す言葉がない。
昨日の出来事があった以上、私は危機感を抱かねばならないのだ。
「だから送っていくよ」
「……瀬野は?」
「俺も家に帰るよ、今日は。
じゃないと制服がないからね」
「……?」
そう言って一度、大きなため息を吐く瀬野。
少しだけ様子が変わったように思えた。
決してその瞬間を見逃さず、じっと瀬野から視線を外さないよう注意する。
『家庭環境のことで色々あるから、理由もなく先生から鍵を借りれるんだ』
その時ふと思い出した。
初めて瀬野と相談室に来た時の会話を。